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No.0023 2025.1.13



車載アクセサリの電源電圧を考える 過電圧編









□ 1.12V系は24V?

自動車の12V系電源を使う車載アクセサリについて、設計の基本を考えます。
今回は過電圧についてです。

自動車の12V系電源は、パソコンの電源とは異なり12V一定ではありません。
クルマのバッテリーが正常の場合、一晩駐車したエンジン始動前の状態で12.1V程度の電圧です。
エンジンが掛かると、エンジンに付いている発電機が電源となり、14.1V程度の電圧になります。

自動車の電気負荷試験規格ISO 16750-2では、電源電圧についても規定されており、どのような部品や製品であっても最大定格が16V以上であるように要求されています。

更には定格を超える状態、自動車が異常な状態のうち、発生頻度の高い条件や簡単に起きてしまう条件については壊れないように設計しなければいけません。
具体的には、エンジンに付いている発電機が故障して出力電圧が高くなってしまう場合を考えて、18Vで60min印加させても壊れないように設計しなくてはなりません。

もう一つは、エンジン始動時のブーストスタート時の過電圧を考えて24Vで1min印加させても壊れないようにする必要があります。



□ 2.ジャンプスタートとブーストスタート

バッテリー上がりのときにエンジンを掛ける救出方法として、ジャンプスタートとブーストスタートがあります。
通常は、バッテリーもしくはエンジンが動いている状態の正常なクルマを並列接続させるジャンプスタートを使います。このときのバッテリーやクルマは並列に繋ぐため、何個のバッテリーを接続しても12.1〜14.1V程度です。

ちなみにバッテリ関係は、色々とややっこしい言葉が乱れ飛んでいます。

例えば 「エンジンブースター」 という装置があります。
これはバッテリーが上がっているクルマに自動車専用の直流安定化電源を接続し、エンジンの始動を助ける装置です。バッテリー充電器(バッテリーチャージャー)では出力できる電流が小さいのですが、「エンジンブースター」 では何十アンペアもの電流が流せます。ジャンプスタートのための装置であり、基本的には12〜14V出力で昇圧しませんが、エンジン「ブースター」と呼ばれています。ちなみに高級機では、16V以上に設定できる物もあります。

ジャンプスタートとブーストスタートで必須のツールとして 「ブースターケーブル」 というものがあります。大きなワニグチで電線が単三電池よりも太いケーブルです。これはクルマのバッテリーが上がってしまったとき、正常なクルマを近くに持ってきてエンジンを掛けた状態にし、 「ブースターケーブル」 で正常なクルマと繋いでエンジンを掛けるためのツールです。このときの方法を 『ジャンプスタート』 と呼びますが、ジャンプスタートケーブル、ジャンパーケーブルとは呼びません。
ですので、バッテリ関係における「ブースター」とは、昇圧ではなく、電流量をブーストさせるという意味でも使われているようです。





では、ブーストスタートとはなんでしょうか?
ブーストスタートはディーゼルエンジン車でのみ有効な、最終手段です。
ディーゼルエンジンの特徴として、燃料(混合気)の爆発にスパークプラグを使用しません。圧縮した空気の高温によってディーゼル燃料が自己発火します。
このとき、空気を圧縮するピストンのスピードが遅いと、圧縮空気の温度は高くなりません。一般的にガソリンエンジンよりもディーゼルエンジンのほうが圧縮比が高く、圧縮負荷が高いためスターターモーターを回すのに大きな電流を流す必要があります。
冬の寒い日の場合は空気も冷たくなるため、圧縮した空気の温度も下がってしまうため空気を暖めるグロープラグを使用するのですが、氷点下の場合は暖めてもエンジンの始動が難しくなります。




冬の寒い日は、エンジンオイルの粘度も高くなってしまいます。摩擦係数の増加によってピストンの圧縮負荷が更に高くなってしまい、より大きな電流を流す必要があります。結果、バッテリーが正常であってもエンジンが掛からないこともあります。このような場合、12Vバッテリーを2個直列に接続し、24Vに昇圧してスターターモーターを回すことによりエンジンを始動させます。この昇圧を「ブースト」と呼びます。
ちなみにトラック等の24V車では、12Vバッテリーが直列に接続された端子間電圧24Vに対して12Vバッテリーを直列に接続し、36Vでブーストスタートさせます。昔は12Vの2個直列ではなく、長い24Vバッテリーが広く使われていたため48Vでブーストスタートさせていたそうです。
ちなみにディーゼルエンジンを高回転型にできない理由は、ピストンのスピードが速くなりすぎると圧縮空気の温度が上がり過ぎ、ノッキングが発生してしまうためです。これは同じように空気を圧縮するガソリン車にも言えることですが、自己発火温度を引き上げたハイオクガソリンを使うことで自己発火を防ぎ、高回転でもスパークプラグによる着火を実現させています。ディーゼルエンジンにおいてハイオクのように発火温度を上げてしまうと、始動性が悪化するため販売されていません。





ここで問題となるのは、正常なバッテリーは12.1V程度ですので、直列に繋げば24.2Vとなります。もし充電器に掛けたばかりのバッテリーやさっきまで動いていた自動車から外したバッテリーを使用する場合は、12.1Vよりも高く13.6V以下になっています。もしこれらのバッテリーを直列させた場合は、最大27.2V程度まで掛かることになります。

もし24Vギリギリで設計して26Vで燃えてしまう場合、試験では正常でも市場で車両火災となってしまうでしょう。
ガソリン車では意味のない「ブーストスタート」ですが、ディーゼルエンジンの「ブーストスタート」を知っていて、試しに「ブーストスタート」をやってしまう人もいるでしょう。「ブーストスタート」させる前に念押しで充電器に掛けたり、自動車で充電させたりする人もいるでしょう。

ですので12V系は、24Vではなく28Vを一定時間掛けても壊れないように設計するのが正解です。




□ 3.過電圧を考慮した回路

以下は、過電圧を考慮しない回路例です。Nch FET RSJ400N10 におけるゲート電圧Vgsの最大定格は20Vです。 一般的にゲート電圧が高いほど、FETのオン抵抗Ronは低くなるため、この回路が一番効率的に外部負荷を動かすことができます。
しかし過電圧を考えた場合、ゲート電圧Vgsに28Vが印加されてしまうため、問題となります。




対策としては、ゲート電圧を抵抗分圧させる、過電圧時は電源供給されないような回路にする、ゲート電圧用に電源IC等を用いた定電圧回路を追加する、といったようにコストや損失等の観点から色々あります。












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