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No.0017 2023.6.17
2023.6.25 追記




実験評価用負荷の選び方









□ 1.負荷の種類

電源回路を設計開発した場合、実際に負荷を接続し、電流を流して動作を確認する必要があります。
電力用の負荷には、実負荷、電子負荷、巻線抵抗(セメント抵抗、メタルクラッド抵抗)の3種類があります。


(1) 実負荷

<価格> 時価 (物によって安価もしくは高価)

 <メリット>  

・現物合わせで設計ができる

実際に使用される負荷にて動作が確認できるため、
負荷の組み合わせで発生する発振やノイズ等も含めて評価ができます。
原価低減のために、ギリギリの品質を狙った開発(狙いの品質)ができます。

 <デメリット>  

・限界が分からない

実負荷は抵抗値が固定であるため、 定格などの最大負荷や過負荷等の設計余裕度などが確認できません。

・入手が難しい、負荷の特性に問題がある

新規開発で試作段階の場合、負荷も試作段階で入手困難な場合があります。試作品は性能に不安定な要素もあるため、そのような状態の負荷で現物合わせをすると、量産時には負荷の特性が変化していて動作が怪しいといったトラブルの元になります。

・実負荷が高価格である

負荷が1個10円であれば、数千個買っても数万円です。
負荷が1個1億円の場合、1つ準備するのも大変です。開発コストは製品販売時に回収する必要があるため、「この部品原価と製造原価で何でこんなに高価格なのか?」と、お客さんに理解されにくい価格となってしまいます。

(2) 電子負荷

<価格> 高い

 <メリット>  

・簡単に使える

定格内であれば発熱を考えなくて良く、抵抗値の設定も簡単にできます。
開発工程にて無視されやすくも大きな工数となる「準備コスト」が大幅に削減できます。

・負荷制御が定量的にできる

プログラム制御可能な機種では、抵抗値を定量的に可変させることができます。
例えばパソコンの場合、起動時にHDDがフル動作となり、負荷変動幅が大きくなります。起動後の安定後、ゲームなどが動作している場合はグラフィックボードやCPUが安定的に高負荷となります。このような時間変化による負荷特性を、定量的にプログラム制御をすることが可能であり、不具合検証で問題となる「再現性」についても精度を高めることができます。

 <デメリット>  

・とにかく高価

とにかく高価です。
負荷で消費される電流は熱に変換されますが、回生制御によってAC200Vに回生出力され、6kWの高負荷電力に対応している、菊水電子工業製のPLZ6000R は、定価が264万円もします。
150W対応で回生制御のない電子負荷でも、20万円以上します。

・体積が大きく重量がある

ワット数が大きい機種は物理的に大きく重量があります。
6kW対応のPLZ6000R の場合、約43kgもあります。気軽に持ち運ぶのは困難です。
150W対応のPLZ164Wでは、約7kgと持ち運び可能な重量です。

・VVVFやPWMといった波形に対応できない場合がある

電子負荷装置内は、負荷源としてFETが使用され、電流フィードバックによってゲート電圧が制御され、安定的な負荷となるように制御されています。VVVFやPWMといった電圧や周期が変化する波形のうち、周波数周期が高速な波形においては、電子負荷装置の制御に影響を与えて誤動作の要因となる場合があります。導入前にはサンプル機を借りて、実際に動作できるのか確認したほうが良いでしょう。

(3) 巻き線抵抗

<価格> 安い

 <メリット>  

・とにかく安い、入手性が良い

秋月電子で10Wのセメント抵抗が、1個50円です。
50Wのメタルクラッド抵抗が、1個350円です。
秋月電子で気軽に購入できるため、入手性は最良です。

 <デメリット>  

・数値合わせに多大な手間が掛かる

ワット数と抵抗値が目的の値となるように、多数の巻き線抵抗を直列および並列に配線するため、多大な手間が掛かります。
抵抗値をピッタリの数値に合わせるためには、数種類のメタルクラッド抵抗を大量に保持しておく必要があるため、電子負荷を使ったほうが結果的に安くなる場合も多いのです。

・冷却を考慮する必要がある

ワット数が高く発熱が大きい場合、冷却を考える必要があります。例えば50Wのメタルクラッド抵抗を50Wの定格で使用した場合、扇風機等で強制冷却しないと短時間で壊れる場合があります。

・インダクタンス成分が含まれる

セメント抵抗やメタルクラッド抵抗は、巻線による抵抗であるため、インダクタンス成分が含まれています。巻き線抵抗は、抵抗値の高いコイルです。高周波が含まれるVVVFやPWM等では、負荷として対応できない場合があります。巻き線抵抗1個あたりのインダクタンス値が低くても、たくさん直列にすると無視できない値となります。







□ 2.巻き線抵抗のインダクタンスについて

セメント抵抗にはインダクタンス成分が含まれるため、高周波の負荷として使えない、とはよく聞く常識です。では一体、どのくらいのインダクタンス成分が含まれているのでしょうか。

(1) 測定

10Ω50Wのメタルクラッド抵抗について、インダクタンス値を測定したところ、1.1μHでした。





大電流を流すため、W数を上げるために並列接続したメタルクラッド抵抗は、0.9μHでした。インダクタンス成分は、並列接続すると抵抗と同じように値が下がり、直接接続は合算されます。




(2) 影響評価

約1μHのインダクタンス成分が確認できましたが、実際にどの程度の影響があるのでしょうか?シグナルジェネレータを接続して周波数を掃引し、電圧を確認するのが最も分かりやすいでしょう。今回は面倒なため、LT SPICE にて以下のような簡単な回路を作成して検証してみます。ピーク電圧5Vのsin波を1μHのインダクタンスに経由させ、10Ωの抵抗に流す回路です。sin波の周波数を1kHzから1GHzまで掃引させ、インダクタンスの影響を確認します。




以下が検証結果のグラフです。縦軸は、抵抗R1の入力電圧を示します。分かりやすいように縦軸はdBではなく電圧V表示にしています。少なくとも車載のEMC評価ではdBではなくVmが一般的であるため、何でもdBである必要はありません。
グラフより、40kHzまではまったく影響がありません。100kHzから影響が確認でき、1.5MHzを超えると2.5Vまで低下し、信号として扱う場合のスレッショルド電圧に影響します。
電力用のVVVFやPWM等では、1MHzといった高周波は一般的ではないため、無視できるインダクタンス成分と考えてよいでしょう。






では、矩形波信号(方形波)においての影響をを確認してみましょう。
矩形波の場合、立ち上がりの左上の角に高調波成分が含まれています。高周波がカットオフされた場合、波形の左上が丸くなることになります。また、インダクタンス成分は立ち下がり時の過度特性(過度現象)において、誘導起電力によって緩やかに立ち下がります。

以下のように、インダクタンスの前後で波形を測定し、比較します。




まずは、周期100us、10kHzの結果です。赤がインダクタンスの入力側、黄色がインダクタンスの出力側です。わずかに角が丸まっていますが、無視できるレベルです。




次に、周期10us、100kHzの結果です。角の丸みが強くなっています。Duty比で考えた場合は数%の差となりますが、ほとんどの用途では問題なく無視できるレベルです。




最後に、周期1us、1MHzの結果です。角の丸みが強くなっています。ここまでくると、信号によっては無視できなくなります。R負荷の電力源として考えた場合、波形の形状から2割程度の損失となることが分かります。










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