Copyright (C)SUWA TSUSHIN NETWORK.
All Rights Reserved. TOPへ戻る
スポンサードリンク

No.2029 2017.10.25 移稿
      2015.3.6 作成

※この記事は、諏訪通信ネットワークのコーヒーブレイクで掲載していたものです



自動運転?





2015年にApple社が自動運転の開発を始めたようです。
自動運転に必要なセンシングは、非常に高度で複雑な技術が要求されます



□1.自動運転とは


1-1.自動運転とは

自動運転とは、人が操作していたものをコンピューターで操作させることです。 電車は自動運転が実用化されています。飛行機や船も自動運転が実用化されています。 同様にクルマも自動的に運転させようという取り組みです。


1-2.広く一般化されている自動運転技術

実は世の中のほとんどのクルマには、すでに自動運転技術が搭載されています。ほとんどのクルマにはオートマチックトランスミッションが搭載されていますが、それも自動運転技術と呼べます。運転者が行っていた変速やクラッチ操作が自動化されています。アイシンAW製のトランスミッションでは、カーナビの地図情報を元にした最適な変速制御が実用化されています。


1-3.自動運転の難しさ

自動運転というと、ドラえもんの世界に出てきそうな難しいものだと考えてしまいます。 しかし、道路上を交通法規に従って走るだけなら、意外と簡単なのです。


1-4.自動運転技術の補助的な利用

自動運転で要求されることは、タクシー運転手の代わりではなく、人間が運転したときに発生しうる不注意での事故がなくなることでしょう。ペーパードライバーや運転が怖いと思う人でも、安全に目的地へ行けることでしょう。

自動運転技術は、運転者が行っていた 「認知・判断・操作」 をシステムが自動で行うことです。 完全なる自動運転では運転者を不要にすることも可能ですが、自動運転技術を用いて運転者を支援することが可能です。 「認知・判断・操作」 の一部に問題があり運転ができなかった人に、その一部を支援することが可能です。 身体的な制約によって運転ができなかった人に、運転免許が与えられるチャンスができるのです。 自動運転は、運転が安全で楽になるだけでなく、社会福祉にも役立つのです。




□2.クルマの運転

2-1.クルマの動き

そもそもクルマができることは、非常に限られています。 走る、曲がる、止まる。それしかできません。ジャンブしたり人型ロボットに変型したり、空を飛んだりはできません。しかし「走る、曲がる、止まる」が高いレベルでできるため、乗り物として成立しています。 人々は、その乗り物に何百万円もの価値があると判断しているのです。


クルマの機能
図 クルマの機能



2-2.クルマの操作

クルマができることは、走る、曲がる、止まるだけです。これらを行うための操作は、運転者が1人で行います。 曲がるための操作には、1つのハンドルを使用します。走るための操作には、1つの足踏み式のベダルを使用します。 止まるための操作にも、1つの足踏み式のペダルを使用します。運転者は3つの単純な制御装置を操作して、クルマを動かします。

クルマを動かすための操作は、非常に簡単です。クルマを動かすのみであれば、老若男女を問わず誰でもできます。 ゴーカートの運転は、幼稚園児でもコースに沿って走行できます。幼稚園児が運転していても前にクルマがいれば、ぶつからないように止まるかよけるでしょう。 クルマを動かすことは非常に簡単ですが、サルに運転させようとしても無理でしょう。そもそも運転したいという願望を持たせることが困難ですが、座席に乗せても操作できないと思いますし、仮に動いたとしても壁にぶつけたり、止まれなかったりするでしょう。 クルマを動かすのには、認知能力、判断能力、操作能力が必要です。


クルマの操作に必要な能力
図 クルマの操作に必要な能力



2-3.運転に必要な認知

いくら頭がよい人でも耳と目がなければ運転するのは不可能です。 目や耳がなければ周りの状況が理解できません。視覚障害であれば、周りの状況が見えません。 失明している人に免許が与えられないのは差別ではなく、社会安全上において必要な区別です。 聴覚に障害があれば、うっかりしていて後方を確認せずに車線変更しようとしたときに、 危険だから割り込むなとクラクションを鳴らされても気付かないでしょうし、 緊急車両が近づいてきても気付かない場合もあるでしょう。これが認知の入力条件です。

ものごとを「判断」するには、前提条件として高度な「認知」が必要です。人間は、認知について高度な処理(考える)が可能です。運転に必要な 「認知・判断・操作」 は、認知症の高齢者でもできます。高速道路を逆走するお年寄りも、それができていたからこそ、高速に乗るまでの一般道では事故もなく運転できていたのでしょう。逆走という結果は、逆走してはいけない場所を逆走しても良いと「誤認知」してしまったためだと思います。


認知のフロー
図 認知のフロー



2-4.運転に必要な操作

いくら頭がよく、耳や目が良い人でも、手足がなければ運転するのは不可能です。 手足がなければハンドルやブレーキが操作できません。いくら技術が発達しても、筋ジストロフィーの人が、 目の動きで運転操作をするのは不可能でしょう。しかし、完全なる自動運転技術が確立し、目の動きで目的地を入力してたどり着けるようになれば、運転ができなくても1人での移動が可能になります。

もし猿に運転をさせようした場合は、ハンドル操作やアクセル操作、ブレーキ操作の意味が理解できないでしょう。ハンドルやペダルが視認できても、それが何であるかが理解できないはずです。でたらめに操作をしてクルマが動いても、操作とクルマの動きの連動性が理解できないはずです。この操作の一部を自動化したものの一例が、オートマチックトランスミッションです。


操作のフロー
図 操作のフロー



2-5.運転に必要な判断

認知できる感覚があり、操作できる手足があっても、判断能力がなければ運転できません。 これは猿でも瞬時にできると思います。 しかし、猿をクルマに乗せても、猿はクルマからいかにして脱出できるかのみを目的として「認知・判断」をしているでしょう。この場合、脱出するための行動が「操作」になります。 猿が自主的にクルマを運転してみたいという願望を持たせることができる技術が確立すれば、猿にクルマを運転させることが可能になるかもしれません。


判断のフロー
図 判断のフロー



2-6.運転の流れ

認知・判断・操作をまとめると下図のようになります。 レーンキーピングアシストや、インテリジェントパーキングアシスト、衝突被害軽減ブレーキなどは、人が行う部分の一部をクルマが行うようにしたものです。


運転の流れ
図 運転の流れ





□3.自動運転の実用例

3-1.具体的な利用例

具体例として、すでに実用化がされている衝突回避支援システムについて挙げてみます。 衝突回避支援システムには、衝突予測警報システムと衝突被害軽減ブレーキの2種類があります。 前方のクルマが止まったときに運転者が行う運転行動は、下図の通りです。


前方のクルマが止まったときの運転行動
図 前方のクルマが止まったときの運転行動




衝突予測警報システムは、衝突の可能性を検知したときにブザーを鳴らし、運転者に危険を知らせるシステムです。危険を察知して知らせる認知・判断・操作はシステムが行い、ブザーを聴いて急ブレーキを掛ける認知・判断・操作は、人間が行います。


衝突予測警報システムの利用時
図 衝突予測警報システムの利用時




衝突被害軽減ブレーキは、衝突の可能性を検知したときに自動でブレーキを掛けて衝突を回避するシステムです。前方や路面の状態から危険を察知して危険回避行動を命令する 「認知・判断・操作」 をシステムが行います。
制動システムは、危険回避行動の命令に従う 「認知・判断」 をし、ブレーキを掛ける 「操作」 を行います。この処理のループ的な繰り返しによって制動力を調整し、安全に衝突せずに止まること実現します。


衝突被害軽減ブレーキの利用時
図 衝突被害軽減ブレーキの利用時





□4.自動運転に求められる認知能力

道路には、様々な情報が錯綜しています。様々な情報を瞬時に取得し、優先度で順位付けをし、状況を認識するという高度な情報処理を休みなく行うのが運転です。 運転で必要な認知すべき情報は、大きく分けて3つあります。「道路の状態」、「自車の状態」、「自車と道路の関係 」が必要です。


4-1.道路の状態

道路の状態の認知性能が、自動運転の要であるといえます。 道路交通法で運転行動を色々と制限しているのは、道路の状態が多種多様であるためです。 様々な制限を掛けることで、多くの人々が適応できるレベルの認知で安全性が確保できます。無免許や飲酒等による認知ができない状態の運転を排除することで、円滑な交通が成立しているのです。道路の状態において、認知すべき主な要素は、下図の通りです。


道路の状態
図 道路の状態





@ 乗り越え不可能な段差があるか

@-1.物理的に乗り越えNGなもの

乗り越え不可能な段差については、例えば道路からコンビニに入るときに、歩道の道路側の縁石に気付かずに乗り上げてしまい、サスペンションや車両下部を傷めてしまった経験は誰にでもあるでしょう。この場合は、通常の運転において物理的に乗り越えられない段差です。 しかし緊急時に待避できる場所がそこにしかなければ、乗り越えるべきです。物理的に乗り越えられない段差であるが、緊急時のレベルによっては乗り越えられる段差であるといえます。車両を傷めてしまうかどうかは、縁石の高さで判断できます。

歩道の縁石
図 歩道の縁石



道路上の落下物もよく見受けられます。厚さ2〜3cm程度までの小さな木材や空き缶程度のゴミであれば、乗り超えるか跨(また)ぐか、轢いてしまっても問題ないと思います。道路には様々なゴミが散乱しています。小枝程度で過剰に避けていては、乗り心地が最悪になってしまいます。 この場合は、通常の運転において乗り越え可能な段差であると判断する必要があります。しかしそれが丸太や冷蔵庫であれば、可能な限り避けるしかありません。


@-2.倫理的に乗り越えNGなもの

道路上を飛び出す犬や猫は、ひき殺せば乗り越えられますが、できれば避けたいものです。しかし避けることで搭乗者や自車、周囲のクルマなどに被害をもたらすのであれば、ひき殺すしかありません。それがハイハイをしている赤ちゃんであれば、自車や周囲に一定の被害があるとしてもひき殺してはならないと思います。この場合は、倫理的に乗り越えられない段差です。

道路を横切る猫
図 道路を横切る猫



高さから乗り越えられると認知できた場合は、それが倫理的に乗り越えて良いものかを認知する必要があります。具体的には、正体不明な段差や物体が何であるかを認知する必要があります。この認知は、画像認識技術のパターン認識が一般的です。何であるかが認知できたら、轢いても良いかを判定します。判定要件は、それを乗り越える必要がある理由と重要度です。倫理的に乗り越えられないものであっても、スピードが出ていて避ける場所が無ければ、急ブレーキで速度を落としつつも引くしかありません。対象物の倫理レベルが高い場合は、避けることによって自車が損壊すると予測された場合でも、損壊予想レベルと搭乗者被害レベルが低ければ避けるべきです。さらに避けることによって対向車等の他者に危害を加える場合は、轢いた場合と他者に危害を加える場合について損壊レベルと法的過失レベルを比較すべきです。もちろんこんなことを瞬時に人間がすることは不可能ですから、ここまでの自動運転ができるようになれば機能としての価値ができるのだと思います。


@-3.技術要件

倫理的な認知はシステムが複雑化してしまうため、物理的な乗り越えについてのみ考えてみます。 段差や落下物、犬や猫やハイハイしている赤ちゃんは、クルマや歩行者と異なり高さがありません。 まずは、壁や自動車などの高さのある障害物ではなく、高さの無い段差や物体であると認識できる必要があります。正体不明の段差や物体を認識した場合、道路上での位置関係を認識する必要があります。
段差や物体が歩道や対向車線にあれば、自車の走行に関係がないため無視するべきですが、猫やボールの可能性もあるため処理を継続すべきです。 走行車線上にあると認識できる場合は、自車との距離を認識する必要があります。距離が認識できたら、自車の周囲、対象物の周囲、自車と対象物の走行線の周囲も認識できる必要があります。その上で、可能かつ最適な運転(回避、ブレーキ)を計算して、実行に移す必要があります。 段差が物理的に乗り越えられないもので、乗り越えるしかないと判断したときには、それが高さにもよりますが衝突になる可能性もあります。対象物の剛性や質量が認識できるレーダーやセンサはこの世に存在しないため、衝突も想定した制御が必要になるでしょう。急ブレーキを掛けると同時に搭乗者が最低限の怪我で済むような制御、シートベルトのプリテンショナ、エアバッグ点火準備などに入るべきです。

正体不明の物体が乗り越えられるかどうかは、物体の高さによります。これらの物体は、歩行者やクルマと比べると高さがまったくありません。結論から言えば、センシング能力がチャッターバーを高さのある構造物として認識できる解像度であれば問題ありません。しかしそれを実用化しているセンサは無いようです。チャッターバーとの距離の認識は、アイサイトなどの既存の画像認識技術で対応できると思います。
倫理的な認知に必要な技術は、画像認識技術のパターン認識等が最適であると思います。この技術は、クルマはもちろん防犯や物流の仕分けなど、様々な分野で実用化されています。



A 障害物があるか

歩行者や自転車を認知して事故を予防しようという取り組みは、各自動車メーカーやサプライヤメーカーで熱心に研究開発がされています。路上駐車や前後のクルマ、対向車の認知技術も実用化レベルだと思います。壁などの大きな障害物の認知は、衝突被害軽減ブレーキにおけるパフォーマンスのようにすでに実用化されています。



B 路面の状態

自動運転では、路面の状態が認識できる必要があります。 路面が凍結している場合は、非凍結時と比べて制動距離が大きく伸びてしまいます。すぐに止まれないため、走行時の速度は落とす必要があります。タイヤグリップが望めないため、クルマの旋回は凍結時専用の操作が必要です。雨などで路面が濡れいている場合も、乾いた路面と比べて制動距離が伸びます。 凍結しているかどうかを気温のみで判断するのは、間違いです。乾いた路面ではいくら気温が低くても凍結しませんので、不必要に速度を落とした走行になってしまい、周囲に迷惑を掛けてしまいます。

水たまりが認識できることも重要です。水たまりの深さが認識できれば理想的ですが、少なくとも2015年時点でそんなレーダーセンサ技術はないと思います。なぜ重要かと言えば、豪雨災害があるためです。冠水しているアンダーパスが認識できなければ、搭乗者を殺すことになるでしょう。川が氾濫して水が流れているところに突っ込めば、クルマも流されてしまいます。

それと別次元の話になりますが、水たまりを走行して水しぶきを上げて、それが歩行者に掛かってしまえば賠償責任が発生します。道路交通法にも違反します。ですので、水たまりが認識できて歩行者も認識できる条件では、水たまりを徐行して通過するか避ける必要があります。これも多くのドライバーが苦手にしている「認知・判断・操作」ですので、自動化ができれば円滑な交通に結びつくのではないかと思います。



C 交通規制の状態

C-1.信号機

交通規制という言葉は重く感じますが、運転時に目にする信号機も交通規制の一部です。 道路を正しく運転するには、道路上の様々な交通規制に対応する必要があります。信号の認識は、パイオニア製のカーナビ等ですでに実用化されています。画像処理技術の組合せで成り立っているのだと予測されます。信号機はパターン認識等で判断し、信号の状態は点灯部分と非点灯部分の色分布と輝度分布を判定に用いれば良いかと思います。

信号機
図 信号機



C-2.道路標識

道路標識は見逃さずに検知することが重要です。カーナビでは交通規制情報が網羅されていますが、その情報は参考情報でしかありません。実際の道路標識が正しいので、それが認識できる必要があります。 画像認識技術のパターン認知が使えると思います。すでにカーナビ等でも実用化されているようです。 運転者が見えない標識は無効ですので、必ず見えるように設置されています。木に隠れて認識できない、標識の支柱が曲がっている等であれば、認識できなくて問題ありません。裁判になったときのために、ドライブレコーダー機能等でエビデンスを録画しておけば完璧でしょう。 逆にいえば、人間の目で認識できる標識を見逃してしまうことがあれば、いくら確率が低くても自動運転の実用には耐えられないといえます。懸念材料は、道路標識の周りの構造物や看板等が誤検知の要因になると思われます。

道路標識
図 道路標識



C-3.一時的な通行規制

一時的な通行規制は、やっかいです。お祭りやイベント等で通行禁止になったり、イベントや事故等で車線規制がされているときは、警察官が誘導したり、道路交通法で規定されていない看板が道路を塞ぐように立てられます。看板には、規制内容の文書と規制区間の地図が書かれています。絶対的な目印がなく、運転者は周囲の状況から区間が規制であると認知するのですが、その周囲の状態が様々なのです。警察官の交通誘導を認識するシステムは、まだこの世にないと思います。看板の文字を認識するシステムはOCR技術などで実用化されていますが、道路の看板に記載されている文字を認識させる取り組みは誰も行っていないと思います。状況を認識できずに警察官の制止を無視して通行禁止の中を突っ込めば、新聞沙汰になるでしょう。運が悪ければ発砲されるかもしれません。 同様に交通検問なども、正しく認識できる必要があります。 道路において警察官の指示は絶対です。絶対に正しく認識できる必要があります。



C-4.道路工事

一時的な通行規制で同様にやっかいなのは、道路工事です。道路工事中は、道路が本来の状態ではありません。白線がなかったり、未舗装であったり、ポールが不均等に立ててあったりと様々です。片側通行の場合は、誘導員の旗信号による交互通行であったり、簡易信号機による交互通行であったりします。工事現場によっても、工事の進捗度合いによっても、多種多様です。これも運転者は、周囲の状況から規制だと認識します。大学の研究において、このような場所を正しく認識する取り組みがされていると以前に聞いたことがありますが、その後どうなったのかは知りません。
技術要点は、信号(機械、人)の認識と、通行可能な空間連続性の認識の2点だと思います。画像センサと測位センサの2つで何とかなると思いますが、作り込みに膨大な工数が掛かるような気がします。



C-5.緊急車両

緊急車両の通過も重要な要素です。道路交通法の第40条では、「緊急自動車が接近してきたときは、車両は交差点を避け、かつ、道路の左側に寄つて一時停止しなければならない。 」と定められています。道路の左側に寄って一時停止するのは、自動運転では初歩的な操作ですので、対応できるはずです。交差点の認識も、カーナビの地図レベルでその地点を避ければ良いのです。
ここで問題なのは、「緊急自動車が接近してきた」 を認識する技術です。緊急車両に送信機が付いていれば簡単ですが、全国の緊急車両にそれを付けようとすれば、莫大な税金が必要です。このご時世では、おいそれと対応できません。 集音センサ(マイク)を使用すれば認識できると思いますが、雑音に対する耐性は作り込む必要がありますし、そもそも誰も実用化に向けて取り組んだことはないと思いますので、様々な課題も発生すると思われます。



C-6.停車命令

自動運転では、道路交通法に沿った運転をするので、違反をして警察に捕まることはあり得ないはずです。しかし、取り締まる側が誤判断をすることもあります。このときは、いかに誤判断であっても、停車命令を受けたときには止まる必要があります。 もし止まらなければ、警察は総動員してカーチェイスを始めるでしょう。自動運転だからでは済まなく、乗車している人たちは逮捕されて、車両は押収されて、徹底的に捜査するでしょう。 停車命令を受けたときには、必ず止まる必要があります。

停車命令
図 停車命令



C-7.踏切

踏切も非常にやっかいです。踏切がやっかいなのは、規格化されていないため、様々なレイアウトで設置されていることです。地図上では簡単に踏切であると判断できますが、実際の道路上の位置関係を把握するのが非常に困難です。踏切を渡るときの先に1台分のスペースがなければ、渡りきることができません。 制御を安全側に振って渡れると判断できる条件を厳しくすれば、後ろからクラクションを鳴らされて怖い思いをするでしょう。

踏切でもう1つ問題となるのは、列車の通過状態です。警報器つきの踏切であれば、警報器の音や光、遮断機の棒を検知して渡れないことが判断できますが、もし踏切が壊れていたら自殺です。原発も爆発する時代ですから、確率的に低くてもいくつかの条件が重なればそのようなケースは発生します。ですから道路交通法では、必ず一時停止と左右確認が義務づけられています。 警報器や遮断機のない踏切では、必然的に左右確認が必要になります。そのような路線で、状態が認知しやすいように鉄道会社になんとかしてもらうのはコスト的に無理です。都市部には警報器なし踏切がないことも費用対効果の面で難題です。
踏切では、自動運転システム側で人間と同じように認知できる必要があります。しかしシステムでは、必ず誤認知、未認知のリスクがあります。誤認知、未認知の相手が電車であると、即大事故に繋がるため、非常にやっかいなのです。

踏切の認知
図 踏切の認知





4-2.道路と自車の関係

自動運転では、自車がどこを走っているのか認識できることも重要です。地図上の論理的な位置関係と、実際の道路上の位置関係の2つの要素が必要です。

地図上の論理的な位置関係ですが、これはカーナビのルート案内のことです。目的地や現在地が理解できず、むやみに道をひたすら進むようでは自動運転とは呼べません。ルートをたどるように走行し、目的地にたどり着くことが必須です。

ルートをたどるように走行すれば、どのように走ってもよい訳ではありません。高速道路の路側帯や歩道が空いていると認知して、走行をすれば犯罪です。対向車線を逆走するのも犯罪です。 白線や黄色線に頼って走行していれば、白線が途切れたり劣化していたときに困ってしまうでしょう。工事中の道路であれば、舗装のみが完了して白線が弾かれていないケースもあります。再舗装のために劣化した路面表面だけが削ってあり、白線はおろか轍(わだち)すらも認識できないケースもあります。工事中で道路規制が行われいる場所で、白線が正しく引かれていない特殊なケースで誤認知し、工事車両や作業員に突撃してしまえば、危険致死傷罪で新聞やテレビで大きく取り上げられることでしょう。 走行して良い場所を正しく認知させ続けるのは、意外と難しいのです。



道路と自車の関係
図 道路と自車の関係





@ 地図上の位置関係

地図上の位置関係は、GPSやWiFi等を使用して認識することができます。GPSはカーナビで必須ですし、WiFiはスマートフォン等で利用されています。現状の技術で十分に対応可能といえます。



A 車両が通れる空間があるか

道路を走行する上で最も重要なのは、前方に車高と車幅以上の空間があるかということです。人が1人やっと通れるような空間を道路と認知してしまえば、大惨事になるでしょう。高架橋下などにあるトンネルでは、高さ制限のある場所が多数あります。そのような場所で高さ制限に気付かずにルーフをぶつけてしまい、廃車になってしまうケースは昔からよくあるみたいです。そのような事故を防ぐシステムがあれば非常に安心で便利ですが、そのような事故を懸念する需要が断片的なため、実用化は難しいのではないかと思います。

現状の衝突被害軽減システム等で使用されている画像センサや測位センサは、路上の通行の妨げとなる歩行者やクルマ等の障害物などを検知することを目的に、研究開発がされていると思います。レーンキーピングアシストでは白線の検知を目的としています。どちらも発生機会という需要が高いため、研究開発の対象になっています。 自動運転における道路での自車の位置関係は、カーナビの地図のように俯瞰で理解できていればよいのではなく、三次元的な空間で認識する必要があります。これはドライバが運転をする上で、常に認識をしている情報です。 これらの位置関係は精度も重要です。対向車が来たときにギリギリですれ違うことができる幅の道路は、都市や地方を問わずたくさんあります。道路上における自車の位置関係を高精度で認識でき、かつ走行可能な空間も高精度で認識できなければ、対向車と接触事故を起こしたり、道路脇の側溝に落ちてしまうでしょう。



B 登坂、降坂可能な角度か

登坂、降坂可能な角度については、例えば河川の土手にある階段脇のコンクリート斜面を道路と認知しては困ります。もちろん三菱パジェロのような一部のクルマであれば走行可能でしょう。他にも横浜等の私道では、クルマの形状によって登坂・降坂するのに無理があるような急坂が少なからずあります。 自車の登坂能力を超える急坂の場合は、走行を回避する必要があります。



C 白線、黄色線との位置関係

白線や黄色線との位置関係は、レーンキーピングアシストなどの機能が実用化されていますが、少なくとも2014年現在までに市販化されているシステムでは、高速道路のような路面状態の良い場所での使用を想定しているようです。どんな道でも確実に検知できるシステムは、高度で複雑な画像認識技術が必要ですので当然であると思います。パターン認識で対応できると思いますが、膨大な要素を整合性を取りながら分類化する作業は、莫大なコストが掛かるはずです。

ちなみに劣化して人間の目では見えないレベルでも、最新の画像認識技術を用いれば白線の認識ができるようです。轍(わだち)も画像認識技術ではハッキリと認識でき、白線を補完するように処理をしてレーンキープアシスト機能の性能向上などに使用されているようです。



D ガードレールや壁との位置関係

ガードレールや壁との位置関係は、レーダーや赤外線レーザーセンサを用いれば測定可能だと思います。しかし2015年現在でのそれらのセンサの目的は、周囲のクルマの検知であると思います。障害物の距離の連続性から側壁と判断して制御をすることを主幹としたシステムは、ほとんどないと思います。



4-3.自車の状態

自動運転では、自車がどのような状態かを認識する必要もあります。同乗者に配慮のない運転をしたときに嫌われてしまうことは、一般常識です。クルマの健康状態を知ることも重要です。ブレーキパットが限界まですり減っているのに、それを認知せず運転をすれば、自殺行為です。



自車の状態
図 自車の状態





@ 速度、旋回状態

自車の速度や旋回状態は基本です。 カーブを走行中に急ブレーキを掛ければ、アンダーステアが発生して対向車線にはみ出してしまうか、スピンしてしまいます。 渋滞の中で自車速度が100km/hであると誤認知すれば、ブレーキがロックした状態になって動けなくなり、周囲から邪魔だとクラクションや罵声を浴び、搭乗者たちは非常に怖い思いをすることでしょう。 何があったときにはクルマを止めてしまえばいいと、安易に考えることができないのが自動車です。



A 車両の状態

どのくらいの燃料があるかは、意外と重要です。 現状のカーナビは、ガソリン残量を考慮し、自動的に給油を考えたルート案内はしてくれません。給油を考慮したルート案内ができなければ、ガス欠が怖くて自動運転は成立しないでしょう。冬の北海道でガス欠を起こせば、暖房が効かずに凍死してしまいます。

ここで重要なのは、目的地までガソリンが持てば良いのではなく、目的地からガソリンスタンドまでの距離を走行できる以上のガソリン残量が確保できない場合は、目的地に行ってはいけないことです。もちろん目的地がガソリンスタンドであれば、目的地でガス欠になっても問題ありません。 ガソリンスタンドは24時間営業もあれば、夜は閉店しているところもあります。給油のタイミングは、時間や走行可能距離に余裕を持たせて行う必要があります。

車両の故障状態が認識できることも重要です。故障を抱えたまま走行すれば、途中で止まってしまう可能性もあります。自分で運転していれば、クルマの調子が悪いときに意外と気付くものですが、自動運転に頼っていれば気付く機会もなくなるでしょう。自動運転を実現するには、高度な自己診断機能が重要です。



B 車室内の状態

車室内の状態も、非常に重要です。もし自動運転システムが危険を察知して急ブレーキを掛けようとしたときに、搭乗員がシートベルトをしていなければ吹っ飛んでしまいます。チャイルドシートに乗せていない赤ちゃんがいれば、命に関わるでしょう。チャイルドシートに乗せていない親が悪いでは済まされないのです。
それが猫や犬であれば、人命第一で急ブレーキを掛けるべきです。赤ちゃん対策で急ブレーキを掛けない方向に特性を振れば、信用できないシステムであると世間で評価されて使われなくなるでしょう。





□5.自動運転の操作

クルマの操作について、できることは3つしかありません。
「走る、曲がる、止まる」のみです。


走る

加速する操作です。速度を一定に保つために加減速をするクルーズコントールの技術は、1980年代後半にはすでに確立しています。エンジンやモーターを使って加減速します。エンジンの減速はスロットルバルブ等で制御し、シリンダのポンピングロスをエネルギー負荷として使用します。モーターの減速は発電の励磁を大きくして発電量を上げ、充電や負荷抵抗等で消費させることでエネルギーの損失を達成します。


曲がる

どんなに低燃費で高性能なエンジンを開発しても、曲がることができなければ乗り物として成立しません。クルマの場合は、タイヤのトー角を変化させることで曲がることができます。トー角は、ハンドルを用いて手動で操作するのが一般的です。
トヨタ車では、インテリジェントパーキングアシスト(IPA)にて曲がることの自動化を、すでに実現しています。電動パワーステアリングのモーターを使用して、自動的にハンドルを動かすといった技術を2000年前半に市販化しています。プリウスには標準でこのモーターが付いているので、自動運転の実験車にプリウスが多用されている理由はこれだと思います。


止まる

どんなに低燃費で高性能なエンジンを開発して、曲がることができても、止まることができなければ、乗り物として成立しません。自動ブレーキで多くの人が最初に思いつくのはABSだと思いますが、ABSはブレーキを緩める装置です。ブレーキを掛ける装置ではありません。次に思いつくのはブレーキブースターですが、あくまでもブースターですので元となる力がなければ無意味です。 エンジンシリンダのポンピングロスではブレーキのような制動力は得られませんし、エンジンが低回転のときは効果が期待できません。アイドリング以下の回転数を使用しようと思っても、振動がひどくて実用に耐えられません。残念ながらブレーキの場合は、衝突被害軽減ブレーキが搭載されている場合を除き、ブレーキを掛けるアクチュエータのような装置は付いていません。現状のクルマで自動運転をしようと思ったときに一番難しいのが、止まることです。

モーターの場合ですが、プリウスには高出力なモーターが使用されているため、乗り心地や運転者に伝わる感覚を無視すれば、割と強力な制動力が得られるようです。プリウスの場合はブレーキを踏んだときにブレーキの力をABSで緩めて、その分を発電エネルギーに充てて制動力にしているようです。自動運転の実験車にプリウスが多用されている最大の理由はこれだと思います。




□6.想定外への対処方法

6-1.想定外の事象に対処するには

想定外の事象に対処するには、まずそれが想定外の例外条件であると判断できることが重要です。想定外を無理矢理に想定内に当てはめるような処理は、誤認知の原因となるため危険です。想定内のケースを探そうとしても無いわけですから、何も処理せずに終わるか無限ループに陥るはずです。しかし例外だからと処理を留めてしまえば、クルマの場合は重大事故に繋がります。走行中にWindowsのようにフリーズやブルースクリーンになったり、アプリケーションの強制終了になってしまえば大変なことになります。 フェールセーフで急ブレーキを掛ければ追突されるでしょうし、進み続ければ追突してしまいます。自動運転の難しさは、クルマは急に止められないので、処理も急には止められないということです。 急に処理できなくなったからと運転者に助けを求めても、運転者は居眠りをしているか他のことを考えてるでしょうから、そんなことはできません。大きな警告音を出しても、運転者は何事かとパニックになるだけで逆効果です。


例外時の問題点
図 例外時の問題点



少なくとも現状の自動運転は、膨大な条件判定を設定して、想定外の事象を無くすといった手法が主流だと思います。想定外なことも想定しておくという手法です。 膨大な条件を、統計的、実験的に分析して、傾向に沿うように簡素化するといった取り組みや、想定外であった条件を実験的に知り得ることで反映させ、より現実的な処理に近づける手法が主だと思います。 人間が考えたり思いつくことは、本質的にはギリシャ神話の頃から変わっていませんし、世の中の物理法則はすべて定量的に表すことができるので、人間ができる言動や思考をパターン化するのは意外と難しくないかもしれません。



スポンサードリンク

TOPへ戻る


ご利用条件
 Copyright (C)SUWA TSUSHIN NETWORK. All Rights Reserved.