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No.2004 2016.3.23


地デジ用アンテナの謎




アナログ放送から地デジに切り替わるとき、カーナビでは専用のフィルムアンテナが販売されていました。
アンテナを取り替えないと、地デジ放送が視聴できないような印象を持った方も多いと思います。




□1.アナログ放送とは?

アナログ放送とは、アナログの映像信号や音声信号をそのまま電波として飛ばす方式です。
搬送波の減衰と各信号の減衰は連動するため、変調等の搬送波の概念は省略します。


(1)アナログ放送の欠点

アナログ放送は、黄色のRCA端子のビデオ信号と同じで、映像がぼやけたり色合いが薄かったり、ゴーストやノイズの重畳が発生したりと、経路の品質に影響しやすい特長があります。

デジタル放送とは、MPEGやWMVなどのパソコンの映像ファイルと同じように映像や音声をデジタルデータ化して、それらのデータを電波として飛ばす方式です。 最低限の一定以上の電波が受信できれば、電波の強弱に関係なく同一の映像品質と音声品質を楽しむことができます。 アナログ放送の頃にテレビブースターを使用しないと映像が悪かったのに、デジタル放送にしたらDVDを観ているかのように綺麗に映るようになったのは、このためです。ゴーストも理論的に発生し得ません。 デジタルのため受信したデータの正しさが判別しやすく、経路の品質によって映像や音声が変化することがありません。


(2)デジタル放送の欠点

アナログ放送では映りが悪くても何とか視聴できていたのに、地デジ放送に換えてからはブロックノイズやフリーズ、音飛びが多くてまともに視聴できない、画面が真っ黒でまったく映らないといった経験があると思います。 電波状況の悪い地方や山間部では、割と顕著にみられます。

デジタルデータでは、受信したデータが誤りと判断された場合は破棄され、誤りと判断されたデータを補完しようとしてもMPEGの圧縮技術ではデータの連続性が重要なため、 正常に受信できないとブロックノイズやフリーズが発生します。データ量の少ないワンセグではデータの連続性がフルセグほどシビアでないため、ワンセグで切り替えることで視聴可能となる場合があります。 しかしワンセグでも電波状況の悪い地方や山間部では結局視聴できなくなります。映りが悪くてザーッという音声ノイズが入っても何とか視聴できるといったアナログ放送的なことを再現することができません。




□2.アナログ放送が使う電波

アナログ放送時代の電波は、下図のように帯域を使用していました。

アナログ時代の電波の帯域


AMラジオは、526.5〜1606.5kHzの帯域、
FMラジオは、76.1〜90MHzの帯域、
東京等の首都圏のテレビ放送で使用されていた1〜12チャンネルは、90.1〜222MHzの帯域、
地方のテレビ放送で使用されていた13チャンネル以降は、470〜770MHzの帯域、
が使用されていました。

90.1〜222MHzの帯域をVHF、470〜770MHzの帯域をUHFと呼んでいました。
FM帯とVHF帯が並んでいるため、昔のラジオチューナーはテレビ放送のNHK1、3chの音声が受信できる機能を持つ物もありました。

テレビのチャンネルごとの具体的な帯域は、下図のようになります。
テレビの場合、首都圏は東京タワーから電波が出ていました。発信源の場所が同じため、特定のチャンネルの映りが悪いという場合があったのは、その帯域にノイズが乗っていたためです。

テレビchごとの帯域






□3.デジタル放送が使う電波

アナログ放送時代の電波は、下図のように帯域を使用しています。

デジタル時代の電波の帯域


AM、FMラジオは、アナログのままですので今までの帯域が使われています。
FM変調でAMラジオが聴けるサービスのワイドFMは、90.1〜94.9MHzの帯域が使用されます。
首都圏のNHK第一放送の1チャンネルで使用されていた帯域です。
地デジ放送は、地方で使用されていたUHFの帯域のうち13〜52ch、470〜710MHzの帯域が使用されます。
首都圏でもこの帯域が使用されます。

2016年3月から始まる新放送サービスのi-dioは、99〜108MHzの帯域を使用します。
アナログ放送時代の首都圏でのNHK教育テレビの3チャンネルの帯域と、2チャンネルの帯域の1部を使用します。
アナログテレビ時代の防犯カメラ用映像トランスミッターなどの一部では2chの帯域を使用しているものがあったようですので、その場合は交換が必要になると思います。ファミコンでもテレビへの出力に2chの帯域が使用されていました。 2chの帯域はアナログ放送時代に色々と利用されていましたので、ガードバンドとして割り当てたほうが良いような気もします。

2016年6月に終了するNOTTVは、207.5〜222MHzの帯域が使用されていました。
首都圏でのテレビ朝日の10チャンネルから、テレビ東京の12チャンネルまでの帯域が使用されていました。




□4.アンテナの交換

地デジに変更するときに首都圏でアンテナ交換が必要な場合があったのは、設置されていたアンテナがVHFのみしか対応していなかったためです。 しかし、実際はそのまま利用できる場合が多いようです。 理論的にはVHFより波長の短いUHF帯はそのまま受信でき、アナログ放送よりも低い受信レベルで電波が弱くてもデータの復元が可能なためです。 デジタル放送の利点の1つです。

逆に地方に住んでいてアンテナの交換が必要だと業者から指摘されて交換した場合、それは詐欺です。
地方では、アナログ放送のときに使用していたアンテナがそのまま使えます。同じ帯域を使用するからです。

噂ですが、地方ではこの手の詐欺があったようです。 お年寄りはもちろんほとんどの人に知識がなく、NHK等でも特に詐欺の注意の呼びかけはありませんでした。地デシカのような地デジ放送のPRやCMは、毎日のように流れていたようです。 アンテナ交換は見た目でも大がかりな作業のため、多少高い費用が取られても仕方がないと誰も疑問に思わなかったようです。過去の話としてうやむやにされているようです。

自動車用のテレビアンテナは、アナログのものがそのまま使用できます。自動車用でVHF専用のアンテナは存在せず、必ずUHF帯も対応していたためです。 アンテナも交換しないと地デジが見れないというのは、誤りだったことになります。地デジ対応に伴いチューナーと接続するコネクタ形状が変更されましたが、実際に変換コネクタを使用して受信できたことを確認しています。
ただし地デジ用アンテナは、首都圏のアナログ放送を受信することができませんでした。UHF帯のみ受信できれば良いため、アンテナを小さくすることができるためです。




□5.ワイドFM

ワイドFMは、FMラジオの方式でAMラジオが聴けるサービスです。
ワイドFMの正式名称は、FM補完中継局と呼ばれるようです。
名目上は、災害対策等のため補完的な放送を行う中継局という位置づけのようです。

今まで利用しなかった帯域を受信することになりますが、アンテナは今までのものが使用できます。
アンテナも交換が必要ですと言われた場合は、他のお店に相談しましょう。
チューナーは、ワイドFMに対応していないと聴取できません。
ただしダイヤル式のアナログチューナーの場合は、受信できる場合があるようです。

ワイドFM推進委員会
http://www.widefm.jp/




□6.NOTTV

NOTTVは、V-Highマルチメディアと呼ばれていた帯域のサービスです。
「これからはNOTTVの時代だ」、「NOTTVは面白い」といったステルスマーケティング的な記事を 2015年頃までによく見かけましたが、2016年6月をもって終了するようです。
利用者は、最大でも目標の17%しか加入せず、準備期間も含めた累積赤字は1000億円を超えるようです。 NTTドコモ資本のサービスのようですので、docomo契約者数が約7000万人とした場合、 お客様一人あたり1430円の通話料負担のサービスだったと思うと安かったのかもしれません。

ちなみに2.6GHz帯の衛星放送を使ったモバHO!は、2004〜2009年までの4年半(54ヶ月)持ちました。 NOTTVは2012〜2016年までの51ヶ月ですので、モバホの記録を3ヶ月更新したことになります。

参考文献:総務省 携帯端末向けマルチメディア放送(V-High)の概要
http://www.soumu.go.jp/soutsu/kanto/bc/multi/gaiyo/




□7.公共用広帯域移動通信システム

i-dioとNOTTVの間、108〜207MHzの帯域が空いています。
このうち170−202.5MHzは、総務省の割当表に「公共用広帯域移動通信システム」と記載されています。
使用する省庁によって名称が異なるようで、「公共ブロードバンド移動通信システム」とも呼ばれているようです。

用途としては、
「公共ブロードバンド移動通信システムは、交通事故や犯罪現場、火災や救急搬送など の緊急現場、水害や土砂崩れなどの災害現場といった、非常時における現場の映像を遠 隔にある対策本部等にリアルタイムで伝送することを可能とする無線システムである。 本システムによって、対策本部等においては、被災状況や事故状況等を詳細かつ迅速に 把握し、適切な対処を検討、指示することが可能となり、これにより、事故、災害等の 被害を最小化する。 (中略) 公共ブロードバンド移動通信システムは、非常災害時に加 えて、例えばダム、河川の水位の把握、道路状況の管理、要人警護、デジタルサイネー ジへの情報提供等、平常時においてもその機能を有効活用し、様々な社会インフラにお ける安全・安心の確保に寄与する」
とあります。

要約すると、行政の通常業務や地震や災害時専用の無線に利用するということのようです。
少なくない税金が使われると思われますので、例えば東日本大震災でこのシステムが 存在していた場合、状況がどのように変わっていたのか、現状のインフラと比べて どのような定量的効果があるのか、興味があります。

202.6〜207.4MHzは、ガードバンドとして使われるようです。


参考文献1:総務省 公共無線システム委員会報告概要(案)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000053921.pdf

参考文献2:総務省 公共ブロードバンド移動通信システムの技術的条件案
http://www.soumu.go.jp/main_content/000054684.pdf

参考文献3:国土交通省 公共ブロードバン移動通信システム 標準仕様書
http://www.mlit.go.jp/tec/it/denki/kikisiyou/kokudenntsushi56.pdf

参考文献4:総務省 公共無線システム委員会報告概要 「公共ブロードバンド移動通信システムの技術的条件」
http://www.soumu.go.jp/main_content/000060414.pdf




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