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No.2031 2017.10.25 移稿
2015.2.8 作成
※この記事は、諏訪通信ネットワークのコーヒーブレイクで掲載していたものです
アーシングの効果
以前に流行したアーシングについて検証してみます。
□1.クルマはボディがGNDライン
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クルマに搭載される電気機器は、基本的にDC12Vの直流電源によって駆動・制御されます。
具体的には、走行時等はDC14.1V程度、エンジン停止時はDC12.4V程度の電圧が供給されます。
プラス側は、電線を配線して分配し、各機器に接続されています。しかしGND側は基本的に配線しません。機器からGNDの配線が出ているかもしれませんが、辿っていくと機器周辺の車体ボディにU端子などを介してボルト留めされているはずです。
同様に、エンジンルームやトランクに設置されている鉛バッテリも、マイナス側を辿っていくとバッテリ周辺の車体ボディにO端子などを介してボルト留めされているはずです。車体ボディは非道通性の防錆塗料で覆われていますが、素材は金属ですから導通性が良いのです。ボディを配線材として用いることで、使用する電線を減らし、コスト削減と車両重量軽減が実現できているのです。
図 クルマのボディとGND
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□2.アーシングとは?
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アーシングとは、車体ボディを介さずに、電気機器とバッテリのマイナス端子を直接電線で繋ぐことです。
エンジンブロックやトランスミッション、マフラーの配管も制御用センサのGNDとして使われていますので、
これらの金属機械と車体ボディとの配線を増やすことも、アーシングとされています。
図 一般的なアーシング
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□3.アーシングの効果
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では、アーシングには意味があるのでしょうか?
結論から言えば、ある場合とない場合があります。新車ではほとんど意味がありませんし、テキトーに開発をしているメーカーのクルマであれば体感できる効果があるかもしれません。人が造る物ですから、漏れ抜けはあります。
ある程度の経年変化が進んだクルマで、かつ高温多湿な場所で保管されていたクルマでも効果が得られるかもしれません。
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□4.アーシングの狙い
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なぜアーシングをしようと思うのかについて考えをまとめてみると、以下のような理由になると思います。
・電気の流れる経路を増やして、電気が流れやすくなれば、電気機器の動作も安定するだろう
・ホディを介さなければ、最短の経路で電気が流れるので、電子機器の動作も安定するだろう
・標準で配線されている電線が劣化しているので、新しい電線を付ければ電気が流れやすくなるだろう
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□5.クルマの電気負荷
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クルマには様々な電気機器が使用されていますが、どのぐらいの電気が使われているのでしょうか?
走行中に使用される、消費電力の大きい主な機器をまとめたのが下表です。
表中のエンジン等の基本制御は、スロットルモーター、燃料ポンプ、インジェクター、点火プラグ、ラジエーターファン等の
動作を想定した仮定値です。
車載品で最も消費電力が大きいのはスターターモーター(40〜80A程度)ですが、走行中には使用しませんので除外しています。
12Vはエンジン停止時の状態、14Vはエンジンが動作してオルタネーターによる発電が行われている状態を指します。
下表で挙げた消費電流の合計値は76.2A、電力に換算すると約1067W にもなります。
電子レンジでいえば約2台にもなり、非常に多くの電気が使われていることがわかります。
ワイパー、ブレーキランプ、ターンランプなどは、瞬間的にON/OFFが繰り返されますが、
それらの消費電流の合計値は約16Aです。走行中は、それらの操作によって224W以下の電力変動があることになります。
表 走行中の電気負荷一覧
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□6.規格について
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自動車用の電線は、日本国内であれば JASO や JIS などで規定されています。
ここで、一般公開されている JIS C3406 について観てみます。
この規格は、規格に適合する耐久性を持っているかを確認するために、正しく試験する方法を記載したものです。
具体的には、「AV」と呼ばれる電線が対象です。
「付表1 電線の種類と構造」 には、電線の仕様について規定されています。
表中には導体抵抗が規定されており、3sqで 0.0052 Ω/m、8sqで 0.00232 Ω/m、30sqで 0.000520 Ω/m となっています。
電線1mでそれだけの電気抵抗に抑えなさい、ということです。導体の純度が低く品質が悪ければ、電気抵抗が高くなります。
ちなみにこの値は、環境温度が20℃の条件下にて規定されています。導体は温度が上昇すると抵抗値も上がり、
温度が低下すると抵抗値も下がります。しかし、温度区分ごとに条件を定めてしまうのは、運用する側も利用する側も面倒でしょう。
少なくともクルマが安全に走行できる外気温の範囲では、意味を持つほどの変化が無いので、
暖かくも寒くもない20℃にて規定されてるのだと推測されます。
電線の電気抵抗が、実際にどの程度影響があるのか検討してみます。
例えばバッテリとボディを繋ぐ電線には、30sq程度の電線が用いられていると思います。
このときの電気抵抗は、 0.000520 Ω/m となっています。
今のクルマは長くてもだいたい30〜40cmですが、今回は1mあると仮定してみます。
上記にて示した通り、電気機器は最大で76.2A流れます。
このときの抵抗による電圧降下は、約0.04Vです。非常に小さな電圧降下ですので、影響は無視して良いことが分かります。
しかし、電線が細く長い経路を想定すると、下図のようになります。
このときに細い電線よりも大きな容量を持ち導体抵抗が小さいと推測される車体ボディを介せば、
電線を1本減らせるのみでなく、約0.45V分の損失を減らせることになります。
図 電線の損失
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□7.劣化について
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実例として新車から10年以上経ち、屋外で駐車されていたクルマを確認してみると、以下のことが分かりました。
(1) 圧着端子がカシめられている部分の導体は、黒く変色している
(2) 圧着端子とボルトが合わさる面、圧着端子とボディが合わさる面に、汚れや腐食がみられる
(3) ボルトのネジ部分、車体ボディのネジ穴の表面は、黒くくすんでいたり、汚れがみられる
(1) については、電線の被覆を剥いたばかりの導体表面の綺麗な2ヶ所間の抵抗値を測定すると、0と表示されました。
このときのテスターは0.01Ωの抵抗が測定できるものです。
つまり、電線内部の劣化はないと推測できます。
さらに電線の被覆を剥いた部分と、圧着端子を削って汚れや腐食ない部分の間の抵抗値を測定すると、
0.01Ωの抵抗値が確認できました。圧着部に緩みはみられません。
電線の導体と圧着端子の接合部に、少しの接点抵抗があることがわかります。
(2) については、電線被覆を剥いた部分と、圧着端子の腐食や汚れのみられる部分の間の抵抗値を測定すると、
0.05Ωの抵抗値が確認できました。圧着端子とボルト座面の接合面にも接点抵抗があると言えそうです。
(3) については、ボディネジ穴とボディ表面の綺麗な金属部分の間の抵抗値を測定すると、
0.01Ωの抵抗値が確認できました。
ボルトについては、ねじ山と座面の間で、抵抗値が確認できませんでした。
以上のことから、電線には劣化がみられず、
圧着端子部や端子取付部分に劣化がみられることが推測できます。
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□8.劣化による電気機器の影響
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電線の電気抵抗は、最大でどの程度の影響があるのかを検討してみます。
電気機器は、最大で約76.2A流れます。
抵抗値の合計は、(2)+(3) であるため、0.06Ωです。非常に小さい抵抗値です。
ですがこのときの電圧降下は、約4.6Vになります。
もちろんすべての機器が同時に最大負荷で動作することはありません。
このクルマは、夜間にブレーキを踏んだり、ウィンカーを動作させると、
操作に連動してヘッドライトが一瞬わずかに暗くなる現象がみられます。
ブレーキランプの消費電流は7Aですから、電圧降下は0.42Vです。
ターンランプの消費電流は4.1Aですから、電圧降下は0.25Vです。
損失によって電圧が下がり、ライトが暗くなるアルゴリズムであるという仮説ができました。
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□9.施工時のポイント
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仮説を元に対策をしてみます。
実例では端子圧着部、圧着端子表面、ボルトのねじ穴に電気抵抗が確認できましたので、
それらを対処すれば、アーシングで目論む効果が高いと思われます。
圧着端子部分の電気の流れは、下図のようになります。
電線の導体部を流れてきた電気は、圧着端子と導体の接触している部分を通ります。
圧着端子に流れた電気は、ボルト座面の接触している部分を通ります。
ボルトに流れた電気は、車体ボディのねじ山と接触している部分を通ります。
図 電気の流れ
(1) 端子圧着部
電線の導体は銅です。空気に触れていれば酸化します。
酸化が原因であれば、古い導体部分をニッパー等で切り離し、
新しく被覆を剥いて導体部分を出し、綺麗な導体部分に新しい圧着端子を使って
カシメるのが良いと思われます。
カシメた後は半田を流し、圧着端子と導体の接触面積を増やせば更に効果が高いと思われます。
圧着は溶着や接着ではないため、面と面の接触ではなく、多数の点と点の接触になるようです。
導体である銅が直接空気に触れないため、酸化も防げるはずです。
実際に行ってみたところ、圧着端子と導体間の抵抗値をテスター表示で0Ωにすることができました。
古いカシメ部に半田を流しても効果がありそうですが、導体部が酸化しているためか、
試行錯誤をしても半田がまったく載りませんでした。
図 カシメ部の再加工
圧着端子が特殊な形状をしている、圧着端子の入手が難しいといった場合は、端子を再利用をする必要があります。
圧着は、溶着や接着でないため、マイナスドライバ等を使用して圧着部分を開くことができます。
しかし、圧着部分は非常に堅いため、古いカシメ部を切り取ったあとに、導体部を抜き取る方法が簡単です。
古い導体を抜き取ったあとは、新しい導体が少しキツめで入るようにカシメ部分の穴を広げます。
新しい導体を挿入した後は、ペンチなどでカシメ部をカシめて圧着します。
しかし圧着力が小さいため、半田を流して補強する必要があります。
図 カシメ部の再利用
(2) 圧着端子表面
カシメ部分を直さずに使う場合、圧着端子を再利用する場合について考えてみます。
ボルトを外すと、下図のように座面が当たる部分の表面および裏面は、輝きがあり綺麗なはずです。
しかし、まれに座面が当たる部分までクスミが発生していたり、白っぽい汚れがみられる場合があります。
その場合は、#1000程度の耐水ペーパーで磨くと、ツヤツヤした金属面が出てきます。
図 圧着端子表面
(3)ボルト座面
ボルトは新品に変えず、そのまま流用する場合が通常であると思います。
電線を追加するアーシングにおいても、ボルト締めされている位置を端子の取付位置にしている人がほとんどです。
ボルトを外すと、圧着端子と同じように、座面の内側は輝きがあり綺麗なはずです。
しかし、座面の内部にまでクスミや錆が発生している場合があります。
その場合は、腐食の度合いにもよりますが、#1000程度の耐水ペーパーで磨くと、ツヤツヤした金属面が出てきます。
端子取り付け用のボルトは、サスペンション等で使用されるような強度剛性部品ではないため、
少しであれば削ったり加工をしても問題ないはずです。
ねじ山の部分は、黒く汚れていることがほとんどです。これが何かは不明ですが、パーツクリーナー等で拭き取れる場合が
ほとんどですので、汚れであると仮定して拭き取っておきます。
(4)車体ボディのネジ穴
車体ボディのネジ穴の周りの塗装面は、黒く汚れていることがほとんどです。これが何かは不明ですが、パーツクリーナー等で拭き取れる場合が
ほとんどですので、汚れであると仮定して拭き取っておきます。
ネジ穴の中についても黒く汚れていることがほとんどですので、パーツクリーナー等を使用して拭き取っておきます。
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□10.改善結果
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圧着端子を再利用する方法で、標準で配線されているアース線について対策を行いました。上記の「施工時のポイント」を行ってみたところ、
テスターで表示される抵抗値がすべて0Ωになりました。
夜間にブレーキを踏んだり、ウィンカーを動作させても、
操作に連動してヘッドライトが一瞬わずかに暗くなる現象がみられなくなりました。
少なくとも今回の場合は、効果がありました。
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□11.一般的なアーシング
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一般的にアーシングを行うときは、新品の電線を使い、新品の圧着端子を使用します。
結果的に、カシメ部などが綺麗な状態で抵抗のないバイパスができますので、
アーシングに効果があるといえます。
ただし、電気は流れやすいところに流れるため、バイパスになる電線の許容電流が小さいと、
そのバイパスによって過負荷時に新たな問題が起きるかもしれません。
(細いほど導体抵抗が高く過負荷時には損失が増加するため、負荷変動によってGNDラインが変化する等)
導体断面積が大きくても、芯線の細い撚り線の場合は、許容電流が小さくなります。
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