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No.2030 2017.10.25 移稿
2015.2.10 作成
※この記事は、諏訪通信ネットワークのコーヒーブレイクで掲載していたものです
点火プラグの取り付け
エンジンの回転フィーリングが今ひとつで、イリジウムプラグに交換したけれど効果がない。
プラグを交換したら、アイドリング時の振動がひどくなった。
このような場合の原因は様々ですが、プラグの取り付け方に問題があるのかもしれません。
□1.点火プラグの構造
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点火プラグ(スパークプラグ)の構造はとても複雑ですが、簡単に書くと下図にようになります。
(レジスターなど、今回の内容と関係のない要素は省略しています)
図 スパークプラグの断面構造
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□2.電気の流れ
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点火プラグの電気の流れを簡単に書くと、下図にようになります。
イグニッションコイルにて3万V程度に昇圧された電気は、電極部に流れます。
電極に流れた電気は、空気を通って向かいのGND側の電極に流れます。空気を通るときの電気は、アーク放電となってほぼすべての電圧が失われます。
プラグGNDに流れた電気は、シリンダヘッドを通り、ボルトや金属ブラケットを介してオルタネーターのGNDに流れます。
図 スパークプラグの電気の流れ
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□3.プラグの汚れ
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点火プラグを外してみると、プラグGNDのねじ山部分に黒っぽい炭のような汚れや
エンジンオイルの臭いがする茶色っぽい汚れが付いていると思います。
点火プラグ座面にあるワッシャーにも汚れが付いているかもしれません。
図 スパークプラグの汚れ
同様にプラグホールをライトで照らして覗いてみると、
点火プラグ座面やねじ穴は茶色いオイルなどで汚れていると思います。
これらの汚れは、臭いや粘度からエンジンオイルであると推測できます。
黒い炭のような汚れは、このエンジンオイルが燃焼室の高温によって炭化したものだと思われます。
図 プラグホールの汚れ
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□4.プラグのワイピング作用
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これらの汚れですが、特に拭き取ったりすることなく取り付けるのが一般的なようです。
自動車メーカーが発行する整備書にも、スパークプラグの点検、取り付けの項目に清掃についての記載はありません。
エンジンオイルは金属のような導通性を持たないため、
汚れは拭き取るべきだと思いますが、この点について考えてみます。
実際にガラス製の模型を用いて実証したわけではないため、想像で考えてみます。
点火プラグを取り付けるときの締め付けトルクが掛かっていない状態は、下図のようになると思われます。
ねじ山とねじ穴の寸法が同一であるとキツくて回せないので、ねじには必ずクリアランスがあります。
オイルが付着していれば、このすき間に入り込むと考えられます。
図 点火プラグの取り付け
点火プラグをねじ込んでいくと、座面がシリンダヘッド面に当たり、ねじ山と座面の間に張力が掛かり、
締め付けトルク以下の力で回されていきます。このとき、オイルは面圧力によって押しつぶされ、すき間に押し出されるのだと思います。さらにねじ山や座面には端子コネクタのコンタクトのようにワイピング作用が働き、汚れが移動して金属面同士が触れ合うメカニズムが想定されているのだと思います。
実際に汚れが付いたまま取り付けてもエンジンが掛かるのは、このメカニズムによるものだと思います。
図 点火プラグの締め付け
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□5.汚れのメカニズム
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なぜプラグがエンジンオイルによって汚れてしまうのか、考えてみます。
ねじ山はスパイラル構造ですので、締め付けによって発生するすき間は、燃焼室に出ている部分から
すべて繋がっていることになります。
もちろん点火プラグ座面付近はワッシャーによって密閉されているため、
燃焼室で発生する圧縮圧力によって吹き出す可能性は少ないはずです。
燃焼室付近の温度変化によって発生するすき間の負圧や毛細管現象などによって、
すき間がエンジンオイルで満たされていくのではないかと思われます。
具体的には、以下のメカニズムではないかと思います。
ピストンが圧縮上死点にない状態でエンジンを停止すれば、
シリンダに付着したオイルが燃焼室内の残熱で蒸発することが推測できます。
それらの蒸発したオイル分が、冷却されて収縮するすき間の空気に入り込み、
エンジンオイルの特性である金属との密着性によって吸着し、堆積していくのだと思います。
すき間に入ったエンジンオイルはそのまま残り、以後の燃焼室の高温によって炭化・固着してしまうのだと思われます。
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□6.汚れの取り方
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液状のエンジンオイルは、油分を分解するクリーナーなどをつけて拭き取れば落ちます。
固着している黒い汚れも、キャブクリーナー等の溶剤系クリーナーを使用し、
精密用マイナスドライバー等でネジの溝に沿って削り落とすようにすれば落ちます。
図 ねじ山に固着した汚れの取り方
プラグホールの汚れは、ペーパータオルを割り箸等に巻き付け、
先端に溶剤系クリーナーを使用してねじ込むように挿入し、数回ほど回すと汚れが取れます。
汚れたペーパータオルは交換し、汚れが付かなくなるまで根気よく繰り返します。
ペーパータオルは、水やオイルが付着してもボロボロと崩れ落ちずに、強度のあるものを使用します。
図 プラグホール用クリーナーの作り方
図 プラグホールの清掃方法
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□7.汚れは取るべきか
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汚れをすべて拭き取ると、
エンジンのフィーリングは改善することが多いです。つまりワイピング作用などでは、不完全であると言えます。
なせ不完全となるのでしょうか?
ねじ山に固着した成分は、点火プラグを点検のために取り外し・取り付けを行うときに崩れてしまい、
面圧力が掛かる部分に付着してしまうと不純物の噛み込みになってしまい、導通不良になるのではないかと思われます。
もう1つの要素として、オイルの性能向上も原因ではないかと思います。
エンジンオイルに対する要求は高く、より高い省燃費・低フリクションを実現させるための技術開発が今も行われているようです。
その高性能化したオイルの油膜が、スパークプラグの導通性に悪い影響を与えているのだろうと考えます。
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□8.エンジンオイルの要素
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エンジンオイルの性能は、以下のように区分されるようです。各区分ごとに性能の優劣を定量的に判断しているようです。
一般的に鉱物油は各性能が最も低いとされています。鉱物油と化学合成油がブレンドされた部分合成油のほうが各性能が高く、100%化学合成油は最も性能が高いと言われています。
超低温での流動性や高温下での粘度安定性(マルチグレードのワイド化)は、このオイル成分によるものが大きいとされています。
API規格でのSLグレード以降の省燃費化(低粘度化)や高寿命化では、それらのオイル成分よりも、添加剤の性能向上による影響が大きいと言われています。
・潤滑作用
エンジンオイルの油膜によって金属同士が直接触れないようにして、摩擦力を低減させる作用です。
エンジンオイルが何に使われているのかと言えば、まさにこれだと思います。
クランクシャフトやカムシャフトの軸受けの潤滑、コンロッドとピストン結合部の潤滑
ピストンリングなどの潤滑が主な役割です。もしオイルがなければ、これらの部分が摩擦熱によって溶け出し、
機能としてそもそも成立しないと思いますので、エンジンの重要部品であると言えます。
・冷却作用
ガソリンが燃えるための燃料だけでなく、ピストン表面の冷却としての機能を持つのは一般的に知られていますが、
エンジンオイルについても気化はしませんがそのような役割があります。
具体的には、熱して冷やすサイクルの伝達手段として用いるため、熱伝導率のことを指すようです
昔には冷却水を使用しない油冷式のエンジンがありましたが、この冷却作用を利用したものです。
オートマチックトランスミッションが搭載されているクルマには、専用のオイルクーラーが
冷却水用ラジエータやエアコンのコンデンサと一緒に設置されていますが、それもこの作用を利用しています。
・清浄分散作用
劣化したエンジンオイルや未燃焼のブローバイガスが固形化するのを防ぎ、溶かしてエンジンオイルに
取り込ませる機能をいいます。チェーンクリーナーやキャブクリーナーのようなイメージです。
・密封作用
エンジンオイルには、油膜によってシリンダの気密性を高めるシーリングの役目もあるようです。
もちろんシリンダの気密性を高める役割は、コンプレッションリングです。
ここで言う油膜は、オイルリングによって作られたコンプレッションリングと当たる
シリンダ表面の油膜ではないようです。
コンプレッションリングの内側を通るであろうブローバイガスを、オイルリングで満たされるオイルによって
ブローバイガスが抜けることを防ぐ機能について想定しているようです。
・防錆作用
金属が空気と触れていれば酸化して錆が発生しますが、それを抑える作用です。
10万km走ったエンジンでも分解をすると内部に錆が一切ないはずですが、
この作用によるものです。
・親和作用
ゴムのパッキンや樹脂に対する攻撃性を指す作用のようです。
もちろんゴムや樹脂に優しいものが高性能といえます。
環境や人体に有害な物質を使わない、燃焼によって有害な物質を発生させないといった性能も、
ここに区分されるようです。
・応力分散作用
潤滑性能と似ていますが、潤滑部のうち局所的に加わる力を受け止めて分散させる作用のようです。
いわゆる油膜の強さについては、この性能を指すようです。
ギヤの唸りをを抑える役目もこの性能に区分されるようです。
・劣化防止作用
エンジンオイルは水分を含む空気やガソリンを含むブローバイガス等によって酸化や劣化しますが、
それを防止する作用をいうようです。ロングライフオイルは、この性能が高いといえます。
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□9.高性能エンジンオイルがもたらす負の側面
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これらの成分のうち、省燃費エンジンに対応する0W-20といった低粘度オイルは、添加剤による応力分散性能の向上によるものが大きいようです。低粘度オイルは局所的に応力が掛かる部分において油幕切れしやすく、油幕切れによる摩擦力によって燃費の悪化や異常摩耗による機能低下を起こしやすく、今まで実現しなかったようです。
点火プラグのねじ山に掛かる応力にも、この性能の影響があるのではないでしょうか?
少なくとも1990年代に0W-20のような低粘度オイルは、市場で使用されていませんでした。応力分散性能も低く、その悪影響を考える必要もなかったはずです。
しかし2015年時点では一般的に使用されていますし、それらの技術が5w-30といった一般的なグレードにおいても応用されていると考えて間違っていないと思います。
応力分散性能の向上は、局所部の摩擦力低下によってエネルギー損失を低減させ、エンジンの耐久性を上げ、エンジンにとって良いことばかりです。
しかし、その性能を持つべきでない数少ないヶ所がこのねじ山です。
もし、点火プラグに付着するオイルが高い応力分散性能を持っていれば、ワイピング作用にも耐えようとするでしょう。しかしそれは、エンジンオイルとして求められる性能であるため正しいのです。
エンジンオイルでは耳にすることがありませんが、浸透潤滑剤の性能要素である浸透性能は、エンジンオイルにも当てはまるのではないかと思います。ベアリングの極圧部、軸受けやラッシュアジャスター等の薄いクリアランスに入り込むには重要な要素であると思いますし、最近のオイルではこの性能も高いと感じます。パッキンやガスケットからのオイル漏れも、この高性能化による負の影響もあるような気がします。
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□10.省燃費オイルに対応する点火プラグの取り付け方
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以上のことから、点火プラグを取り付けるときには、清掃をしてから取り付けるのが正しいはずです。
しかし、清掃作業は非常に面倒であり、清掃をしなくてもエンジンが掛かるのは事実ですので、
今後も整備書で書かれることはないと思います。
ディーラーで使用されるような価格と性能のバランスが取れたオイルよりも高級なオイルを使用している場合は、
エンジンのフィーリングについても気にしていることが多いと思いますので、特に気をつけたほうが良いかもしれません。
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参考文献
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オイルについては一般的な知識しかないため、以下の文献を引用させて頂きました。
・一般社団法人 日本自動車工業会様 JAMAGAZINE11月号 vol.48 エンジンオイルの役割と種類
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